「旅の本」というと筆者はふた通りの本をイメージする。
即ち「旅に持ってゆく本」と「旅について書かれた本」である。
これから少しずつ両者を取り上げて行くつもりだが第1回目は後者から。
時々テレビにも顔を出すのでご存知の方も多いと思うが、著者は現在長野県東御市の高原でワイン用の
ぶどうや野菜を栽培する農業を営んでいる。
そのぶどうを使ったワインの醸造を自ら手がけ、出来上がったワインや自家製野菜を使った
料理を提供するレストランも営んでいる。

また独特な画風でパリの町並みや静物を描き、神奈川県箱根町には個人美術館を有するなど
多才な人として知られている。
青年時代パリ在住の現地添乗員として旅行業にかかわり、その後も世界各地を旅して多くの旅行記を
出版しきた『旅の流儀』にはそんな彼が長年の旅の経験から体得した具体的かつ実用的なノウハウが
盛りだくさんに紹介されている。
いつもの彼らしく少しだけアイロニカルなユーモアも忘れてはいない。
例えばキャスターつきのキャリーバッグについての感想など、思わずそうだ、そうだと頷いてしまうほど。

それにしても冒頭にある「旅支度は何回繰り返しても上達することがない」という警句はこの著者ならではの説得力がある。
“>旅の流儀[中公新書 税別760円]